英語圏文化専修とは

国際英語専攻

学部国際コミュニケーション学域からの進学が想定される大学院コースです。もちろん他学域・他大学からも幅広く大学院生を受け入れています。

英語圏の言語と文化を、分野横断的な視野を保ちつつ専門的に探求する専修です。英語圏地域と関係をもつ人びととの移動や交流、それにともなう言語や文化の変容は、たいへん重要な意味をもっています。それらについて専門的な知識を身につけ、研究を深め、分析し論理的に考察することは、私たちの時代に喫緊の課題といえましょう。

本専修で研究可能な分野は、英語圏の地域研究、英語圏文化研究、伝承文化文学研究、児童文学・ファンタジー文学研究、英語学、言語・コミュニケーション研究などです。

予想される進路は、研究職をはじめとして企業や公共団体の国際関連部門社員、出版、教育、ジャーナリズム、一般企業などです。

院生の研究テーマ(例)

  • Scottish Traveller Self-Representation in Stanley Robertson’s Literary Works(Stanley Robertsonの著作に見るスコティッシュ・トラベラーの自己表象)
  • 19世紀ミンストレルショーの笑いと抵抗—クリスティ・ミンストレルズを中心に
  • Jack B. Yeats作品における大衆娯楽文化の表象
  • Harry Potter and the Deathly Hallowsにおける死生観—中世説話・おとぎ話の影響-
  • 「対話の一体感」をもたらす音声インタラクションの時間的特徴—ロボットと人の漫才対話データの分析から―
  • 日常のナラティブにおける、「声」の多重性とその機能について
  • 現代中国語移動表現の動詞枠付け的性質—統語的証拠からの考察と日本語との対照分析—(Verb-framing properties of Mandarin Chinese motion-event sentences: their syntactic evidence and contrast with Japanese)
  • A study on the linguistic behavior of “Complaining” and its responses in Japanese and Egyptian-Arabic languages(日本語とアラビア語エジプト方言における「不満表明」の言語行動とその応答に関する研究)
  • The identity transformation and second language acquisition by multilingual Chinese students in Japan

大学院生の声

一世紀半の時を超えて繋がる―ミンストレル・ショー資料調査で思うこと

国際英語専攻

猪熊慶祐

博士課程に入って大衆芸能であるミンストレル・ショー研究をし始めたのは、修士の時のハーレム・ルネサンス研究がきっかけでした。パフォーマンスに関心があった私は、文学作品に描かれる1920年代に流行した黒人キャストのミュージカルやヴォードヴィルなどについて、「実際はどのようなものだったのだろうか?」、「黒塗りの顔やジョークのルーツは一体どこにあるのだろうか?」という疑問を抱くようになりました。ミンストレル・ショーについての教科書的な知識はありましたし、その影響ということも、ある程度の理解はしていました。ですが、私の疑問が解消されることはなかったのです。黒人が蔑まれる芸能、確かにその要素はあります。しかし、それだけなのでしょうか。それだけで大流行するものなのかと。なにせ、黒人も入場できた娯楽なのですから。

黒塗りの芸能者が歌をうたい、踊りを披露し、ジョークを飛ばす。これがミンストレル・ショーについて頻繁に使われる表現です。しかし、どんな歌や曲が披露され、どのようなジョークが発信されていたのか、もっと言えばショーのルーツなど、知られているようで実は詳しく知られていない娯楽産業です。もちろん、学術の世界でその一部は議論されてきましたが、それはまだまだごく一部でしかありません。

そのような疑問を少しでも解消するため、ニューヨークとボストンを訪れました。公立図書館とハーバード大学のアーカイブを拠点にして、ミンストレル・ショーの脚本収集と19世紀の移民に関する調査を行いました。保存状態が良ければ、実際に資料を手に取ることができます。150年以上も前の資料に直に触れるというのは、現在(自分)と過去が一気に繋がる瞬間で、何度経験しても感慨深いものです。いずれもごく短い脚本ですが、目を通すと、移民でごった返し、娯楽の中心地でもあった19世紀ニューヨークが垣間見えてきます。

国際英語専攻
国際英語専攻

その頃のマンハッタンの生活をより生々しく感じられるのが、かつてのテナメント(集合住宅)を利用したテナメント・ミュージアムです。ここでは、部屋の間取りから家具、当時の人々の衣類までも目にすることができます。私が訪れたのは、まだ蒸し暑さの残る8月後半、土砂降りの雨の日でした。部屋には扇風機やサーキュレーターが置かれていましたが、それらが無い場所はたまらなく蒸し暑い。今のように便利な道具などない時代、あの気温と湿度であれば、肉体的な負担は増すばかり。加えて天候の変化があっては、気分の浮き沈みが大きく、精神的にも穏やかに過ごすことは難しかったのではないでしょうか。「住めば都」といえども、お世辞にも容易に適応できる住環境ではありません。同時代にテナメントに居を構えた人々は、少なからず似たような生活を強いられたはずです。数多のミンストレル楽団が本拠地としたのは、そんな街です。当時の似たような境遇の人々は、劇場へ足を運び、お金を払ってでも笑いたかったのかもしれません。

大衆芸能は、他者を馬鹿にしたり、見下したりするきらいがあります。これは、人々の笑いを誘う一つの方法でもあります。芸能のネガティブな側面を無視はできませんが、同時に、人々が笑うのはそういう点であることも忘れてはならないのです。これが、大衆芸能研究が面白い反面、難しい点でもあります。19世紀アメリカの文化を紐解くには、アメリカ国内の事情を知るだけでは解決できません。調査をもとに、大量に押し寄せた移民の文化についても視野を広げ、さらに研究を進めていくところです。



マリーナ・バハー(博士課程後期)

私は、エジプト出身の大学院生で、言語学及びコミュニケーション学、言語コミュニケーション(語用論)を専攻しています。2018年の4月から現在にかけて英語圏文化専修の博士課程で勉強しており、岡本雅史先生のご指導のもとで日本人とエジプト人のコミュニケーション文化の違いについて研究しています。

言語コミュニケーション能力とは、ただ言語表現の文法的な使用の正確さや言葉知識の豊富さといった能力を指すものでなく、具体的な場面で現れる様々な行動におけるコミュニケーションを行う参与者の文化的、社会的、認知的な背景やその参与者間の力関係、親疎関係などによって言語表現や言葉を選り分けて使用する能力を指します。そして、私の研究では、主に「不満表明」の言語行動に着目して、 不満表明が、不満を感じる側からの一方向的な不満の発話に限定され産出される行為ではなく、不満の話し手と受け手の発話が連なる談話シークエンス全体の中で遂行される行為だと議考えています。

2018年に公開された「日本語日常会話コーパス」を使用して日本語の現実の不満対話データを分析してきました。研究成果を社会言語学の分野でもっとも有名な社会言語科学会大会で2回発表しました。今後も、 本学の国際的研究活動促進研究費を取得し、エジプト人の現実の対話データを収録に行きたいと考えています。

修了生の声

早川明郎 愛知県立高等学校教諭

私は在学中、アメリカの黒人音楽史研究に取り組んでいました。その中でも、戦前に活躍したブルーズシンガーRobert Johnson(1911-1938)に焦点を当て、彼に関するレビューや書籍を時代背景と照らし合わせながら、彼の知名度がどのように広がったのかを分析しました。

英語圏文化専修の特徴は、授業や仲間の発表などを通して、英語圏に関する歴史や文化・芸術などを多角的視点から学ぶことができることです。私は現在、高等学校の地歴科教諭として働いています。高校で教える歴史は、どうしても政治史・経済史に偏りがちですが、そこにこの専修で学んだ文化史的な側面を関連付けることで歴史に深みが増すとともに、生徒へより具体的なイメージを持たせることができると実感しています。簡単に例を出すとすれば、「ロックやR&B・ジャズなどの音楽は、その歴史を遡っていくと黒人奴隷制に行き着くんだよ」といった具合です。

教員以外にも様々な進路が考えられるこの専修ですが、どの進路を選ぶにしても、「自分の考えを適切な論拠のもと述べる力」が大切だと私は思います。その力を培えたことが、この専修を選んで良かったと思える最大の点です。それも、英語圏文化専修の論文指導が充実しており、先生方のアドバイスを受けながら、適切な資料や文献を精査して自分の考えをまとめることができたからだと、私は感じています。

教員紹介

教員紹介

ウェルズ恵子 教授

指導するテーマ

口承伝承を重んじた作家や詩人の作品研究、音楽文化に関する文学寄りの研究、おとぎ話の比較研究、伝承歌・伝承物語などの伝播、変容、生成に関する研究、文学寄りのアメリカ研究など。

ウエルズ 恵子 教授「声」や「音」と関係が深い文学と、文学が成り立つ環境としての文化についても広く研究。対象はアメリカ合衆国が中心で黒人文化も白人文化も研究し、アメリカ人の祖先の国々であるヨーロッパ諸国やアフリカの歌と物語,アメリカ先住民の歌と民話,日系人文化なども、ある程度守備範囲に入れている。歌やお話は人間を苦しみから救う力があると思うから,それを文学研究として立証したいと考えている.専門は英米文学・比較文化・声の文学。研究対象は、歌詞、音楽文化、物語、おとぎ話、近現代詩、口承文学全般。

教員紹介

岡本雅史 教授

指導するテーマ

言語学(認知文法,認知意味論,意味論,語用論,談話分析,など)、およびコミュニケーション研究(インタラクション分析,日常会話・ディスコミュニケーション事例分析,など)。

岡本雅史 准教授専門は言語学(認知言語学・語用論)およびコミュニケーション研究。長きに亘ってコミュニケーションとリアリティの解明が二大研究テーマになっており,人間はいかにして言語・非言語を用いてコミュニケーションを行っているのか,そして世界をどのように言語や身体によって分節化し,認知しているのか,さらにはどのようにして世界と現実感を持って接することができるのか,等について考察・研究を進めている。近年取り組んでいる研究対象としては,統合失調症や高次脳機能障害,発達症スペクトラムなどにまつわるディスコミュニケーション,および漫才対話などのオープンコミュニケーション構造の言語・非言語的特質,ナラティブやモノローグの中に潜む相互行為性,等がある。

教員紹介

小川 真和子 教授

指導するテーマ

アメリカ社会史、日米関係などにちなんだテーマなら基本的に受け入れることができます。

私の専門はアメリカ研究(American Studies)です。主な関心は日米関係ですが、政治家や外交官、軍人といった「官」による日米関係構築だけでなく、いわゆる「民間外交」、具体的には国際的な平和運動や社会改良運動、女性運動や日米関係の改善などに尽力してきた日米キリスト教関係者の運動について研究をしてきました。また、近年では、国家が作り出してきた海の境界線の枠組みを超えて、太平洋各地を縦横無尽に移動して操業したり、ハワイなどの出漁地に住み着いて水産業を発展させてきた日本人漁業者やその家族について、社会史的な視点から研究をしています。日本とアメリカは太平洋によって「隔て」られてきたのではなく、海によって「つながっていた」のだと捉え、太平洋を線ではなく面で見ることによって、陸中心の視点とは異なる日米関係が見えてくるのではないか、と思いつつ、研究を進めています。

教員紹介

坂下史子 教授

指導するテーマ

アフリカ系アメリカ人の歴史と文化全般。

私の専門はアメリカ研究 (American Studies) で、主にアフリカ系アメリカ人の歴史と文化を研究しています。なかでも彼・彼女らを標的とした暴力と、こうした人種暴力に対する抵抗の歴史を、人種・階級・ジェンダー・セクシュアリティなどの様々な視点から、歴史学やカルチュラル・スタディーズの手法を用いて考察しています。また、当時の出来事を明らかにすることだけではなく、それが現在に至るまでどのように語られてきたかという commemoration (公的記憶)の問題にも関心があります。最近では、公民権運動時代(1950〜60年代)以降に生まれ育った「ポストソウル」世代と呼ばれるアフリカ系アメリカ人の文化を、歴史的記憶継承と断絶の側面から探求しています。

教員紹介

佐野まさき 教授

指導するテーマ

生成文法や語彙意味論等に基づく英語や日本語の統語論および意味論。日英と他の言語との比較研究。

自身の専門は生成文法の枠組みでの英語および日本語の比較統語論・意味論である。ただし、語彙意味論や日英の記述文法も研究の対象としており、学生が幅広く興味を持つことをうながしている。 長い間、日英のモダリティ(話者の心的態度を表す表現)を中心に研究している。具体的には、日英の助動詞的表現や、それと関連する日英の副詞・日本語の副助詞(とりたて詞)である。この分野は、文の構成を扱う統語論と、文の意味を扱う意味論とが興味深い相互作用を見せる。さらに、文の内側からの情報と、文の外側からの情報との接点(インターフェース)にも関わりの大きい分野でもある。
また、文法から見た言語と文化との関係にも興味を持っている。具体的には、英語では I gave Ken a book も Ken gave me a book も同じ動詞(give) が使えるが、日本語では「私はケンに本をあげた」と「ケンは私に本をくれた」のように、異なった動詞を使い分けなければならず、「×私はケンに本をくれた」や「×ケンは私に本をあげた」のようには言えない(あるいは「与えた」などを使うことはきわめて不自然)、といったことに関することである。

教員紹介

岡本広毅 准教授

指導するテーマ

中世イギリスの言語と文学、英語の歴史

中世イングランドの言語と文学を研究しています。特に、中世アーサー王物語 『ガウェイン卿と緑の騎士』などの文学作品と、中世に広く流布した建国神話や歴史との関連性を掘り下げています。中世の伝承や文学的伝統は、現代ファンタジー文学(『ホビット』や『指輪物語』など)の誕生と密接に関係し、今や現代の大衆文化の一端を形成するほどその影響は大きい。イギリス文学・文化のルーツを学び、通時的知見を得ることによって、現代の英語文化に対する理解がより一層深まるでしょう。

教員紹介

根本浩行 教授

指導するテーマ

第二言語学術リテラシーの発達過程、異文化接触によるアイデンティティ変容、異文化能力とリテラシーの関連性に関する研究など

社会言語学を専門とし、第二言語習得における社会文化理論を用いて、学術場面での異文化接触を主に研究しています。異文化インターアクションを、時の流れや異なる状況下で変化する「流動的リソース」と捉え、認知的要因のみならず社会文化的要因(文化、社会、コミュニティ、言語使用環境、ネットワークなど)を考察しながら、異文化適応における第二言語リテラシーの発達とアイデンティティ変容の探究を進めています。