
学部国際コミュニケーション学域からの進学が想定される大学院コースです。もちろん他学域・他大学からも幅広く大学院生を受け入れています。 英語圏の言語と文化を、分野横断的な視野を保ちつつ専門的に探求する専修です。英語圏地域と関係をもつ人びととの移動や交流、それにともなう言語や文化の変容は、たいへん重要な意味をもっています。それらについて専門的な知識を身につけ、研究を深め、分析し論理的に考察することは、私たちの時代に喫緊の課題といえましょう。 本専修で研究可能な分野は、英語圏の地域研究、英語圏文化研究、伝承文化文学研究、児童文学・ファンタジー文学研究、英語学、言語・コミュニケーション研究などです。 予想される進路は、研究職をはじめとして企業や公共団体の国際関連部門社員、出版、教育、ジャーナリズム、一般企業などです。

猪熊慶祐
博士課程に入って大衆芸能であるミンストレル・ショー研究をし始めたのは、修士の時のハーレム・ルネサンス研究がきっかけでした。パフォーマンスに関心があった私は、文学作品に描かれる1920年代に流行した黒人キャストのミュージカルやヴォードヴィルなどについて、「実際はどのようなものだったのだろうか?」、「黒塗りの顔やジョークのルーツは一体どこにあるのだろうか?」という疑問を抱くようになりました。ミンストレル・ショーについての教科書的な知識はありましたし、その影響ということも、ある程度の理解はしていました。ですが、私の疑問が解消されることはなかったのです。黒人が蔑まれる芸能、確かにその要素はあります。しかし、それだけなのでしょうか。それだけで大流行するものなのかと。なにせ、黒人も入場できた娯楽なのですから。
黒塗りの芸能者が歌をうたい、踊りを披露し、ジョークを飛ばす。これがミンストレル・ショーについて頻繁に使われる表現です。しかし、どんな歌や曲が披露され、どのようなジョークが発信されていたのか、もっと言えばショーのルーツなど、知られているようで実は詳しく知られていない娯楽産業です。もちろん、学術の世界でその一部は議論されてきましたが、それはまだまだごく一部でしかありません。 そのような疑問を少しでも解消するため、ニューヨークとボストンを訪れました。公立図書館とハーバード大学のアーカイブを拠点にして、ミンストレル・ショーの脚本収集と19世紀の移民に関する調査を行いました。保存状態が良ければ、実際に資料を手に取ることができます。150年以上も前の資料に直に触れるというのは、現在(自分)と過去が一気に繋がる瞬間で、何度経験しても感慨深いものです。いずれもごく短い脚本ですが、目を通すと、移民でごった返し、娯楽の中心地でもあった19世紀ニューヨークが垣間見えてきます。


その頃のマンハッタンの生活をより生々しく感じられるのが、かつてのテナメント(集合住宅)を利用したテナメント・ミュージアムです。ここでは、部屋の間取りから家具、当時の人々の衣類までも目にすることができます。私が訪れたのは、まだ蒸し暑さの残る8月後半、土砂降りの雨の日でした。部屋には扇風機やサーキュレーターが置かれていましたが、それらが無い場所はたまらなく蒸し暑い。今のように便利な道具などない時代、あの気温と湿度であれば、肉体的な負担は増すばかり。加えて天候の変化があっては、気分の浮き沈みが大きく、精神的にも穏やかに過ごすことは難しかったのではないでしょうか。「住めば都」といえども、お世辞にも容易に適応できる住環境ではありません。同時代にテナメントに居を構えた人々は、少なからず似たような生活を強いられたはずです。数多のミンストレル楽団が本拠地としたのは、そんな街です。当時の似たような境遇の人々は、劇場へ足を運び、お金を払ってでも笑いたかったのかもしれません。
大衆芸能は、他者を馬鹿にしたり、見下したりするきらいがあります。これは、人々の笑いを誘う一つの方法でもあります。芸能のネガティブな側面を無視はできませんが、同時に、人々が笑うのはそういう点であることも忘れてはならないのです。これが、大衆芸能研究が面白い反面、難しい点でもあります。19世紀アメリカの文化を紐解くには、アメリカ国内の事情を知るだけでは解決できません。調査をもとに、大量に押し寄せた移民の文化についても視野を広げ、さらに研究を進めていくところです。
マリーナ・バハー(博士課程後期)
私は、エジプト出身の大学院生で、言語学及びコミュニケーション学、言語コミュニケーション(語用論)を専攻しています。2018年の4月から現在にかけて英語圏文化専修の博士課程で勉強しており、岡本雅史先生のご指導のもとで日本人とエジプト人のコミュニケーション文化の違いについて研究しています。 言語コミュニケーション能力とは、ただ言語表現の文法的な使用の正確さや言葉知識の豊富さといった能力を指すものでなく、具体的な場面で現れる様々な行動におけるコミュニケーションを行う参与者の文化的、社会的、認知的な背景やその参与者間の力関係、親疎関係などによって言語表現や言葉を選り分けて使用する能力を指します。そして、私の研究では、主に「不満表明」の言語行動に着目して、 不満表明が、不満を感じる側からの一方向的な不満の発話に限定され産出される行為ではなく、不満の話し手と受け手の発話が連なる談話シークエンス全体の中で遂行される行為だと議考えています。 2018年に公開された「日本語日常会話コーパス」を使用して日本語の現実の不満対話データを分析してきました。研究成果を社会言語学の分野でもっとも有名な社会言語科学会大会で2回発表しました。今後も、 本学の国際的研究活動促進研究費を取得し、エジプト人の現実の対話データを収録に行きたいと考えています。早川明郎 愛知県立高等学校教諭
私は在学中、アメリカの黒人音楽史研究に取り組んでいました。その中でも、戦前に活躍したブルーズシンガーRobert Johnson(1911-1938)に焦点を当て、彼に関するレビューや書籍を時代背景と照らし合わせながら、彼の知名度がどのように広がったのかを分析しました。 英語圏文化専修の特徴は、授業や仲間の発表などを通して、英語圏に関する歴史や文化・芸術などを多角的視点から学ぶことができることです。私は現在、高等学校の地歴科教諭として働いています。高校で教える歴史は、どうしても政治史・経済史に偏りがちですが、そこにこの専修で学んだ文化史的な側面を関連付けることで歴史に深みが増すとともに、生徒へより具体的なイメージを持たせることができると実感しています。簡単に例を出すとすれば、「ロックやR&B・ジャズなどの音楽は、その歴史を遡っていくと黒人奴隷制に行き着くんだよ」といった具合です。 教員以外にも様々な進路が考えられるこの専修ですが、どの進路を選ぶにしても、「自分の考えを適切な論拠のもと述べる力」が大切だと私は思います。その力を培えたことが、この専修を選んで良かったと思える最大の点です。それも、英語圏文化専修の論文指導が充実しており、先生方のアドバイスを受けながら、適切な資料や文献を精査して自分の考えをまとめることができたからだと、私は感じています。




